家禽図鑑

著 者:三井高遂, 衣川義雄
発行日:昭和8年2月11日
発行元:成美堂書店
定 価:4円

(コラム)
まずこの本を手にとってみると、その重厚感から作り手の強いこだわりのようなものが伝わってきます。これまでに成美堂書店が発行してきた本の中では、群を抜いて豪華で、存在感のある一冊でしょう。
さて、「家禽」とは鶏やアヒルなど飼育される鳥を総称して使われる言葉です。本書は、人類の生活に密接にして欠かすことの出来ない様々な家禽を紹介した図鑑、写真集ということになります。とはいえ、飼育方法などにはついては書かれておらず、ひたすら家禽の写真が載っているので、観賞用としての趣が強いように思われます。
掲載されている鳥の名前をざっと羅列してみると、日本種としては、尾長鳥(多数)、東天紅、岐阜地鶏、土佐地鶏、薩摩地鶏、声良、しゃも(多数)、ちゃぼ(多数)、名古屋、三河、熊本、秋田、能代、出雲など。「名古屋」とだけ呼ばれているのは、後に鶏の王様と呼ばれる「名古屋コーチン」のことで、「秋田」は「比内地鶏」のルーツでしょう。これに「薩摩地鶏」を合わせた三品種が「日本三大地鶏」として、現在もたいへん人気があります。
外国種としては、コーチン、レグホン、プリマスロック、ロードアイランドレッド、オーピントン、バンタムなど。このあたりは知る人ぞ知る世界になってくるのかもしれません。「コーチン」は中国種で、「名古屋」と交配させて「名古屋コーチン」が、「秋田」とアメリカの「ロードアイランドレッド」を掛け合わせて「比内地鶏」が誕生しています。「薩摩地鶏」も「薩摩」と「ロードアイランドレッド」の交配種です。「バンタム」はインドネシア産の鶏ですが、ボクシングの階級「バンタム級」の由来として知られています。しかし、ここに載っている品種のいくつかは、この時代にすでに絶滅しているものもあるので、写真が貴重であると付記されています。八十年が経過した現代では、さらに絶滅種が増えているのではないでしょうか。
大正時代の制作ですから、日本にはまだカラー写真がありません。従ってカラー印刷に使われているものは写真ではなく、絵画になります。またモノクロ印刷にも苦労が多かったようで、暗い部分がつぶれないように版をいくつも重ねて濃淡を出していたようです。写真の美しさにこだわった様子が窺えます。
余談ですが、ある時期、我が家には多品種の鶏が跋扈していました。父が買い集めてきては、卵が孵化してしまい、庭はニワトリだらけになったのです。父はこの図鑑が大好きで、幼い頃からよく見ていたそうで、その影響が出たのだと思います。

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