動物学新教科書


著者:辻野周治
発行日:大正9年10月30日
発行元:成美堂書店
定価:70銭

(コラム)
冒頭にある「例言」によれば、「本書は中等学校における動物学の教授に使用する目的をもって編纂したり」とあります。内容はタイトル通り動物学なのですが、その網羅している範囲が広いことに驚きます。哺乳類、鳥類、爬虫類、魚類にはじまり、昆虫類、多足類、甲殻類や軟体動物、原始動物にいたるまで、教科書というよりは図鑑という印象さえあります。ウサギの解剖図をはじめ、当時としては貴重なカラーページも何枚か差し込まれています。
興味深かいのは牧畜の項です。牛、馬、豚、羊について書かれていますが、当時の日本の食文化や国際情勢まで見えてきます。例えば「牛」については、乳用、肉用、役用の区別があるとして、ホルスタイン等を紹介しています。
そこまでは良いとして、本邦(日本)での役用として次のような記述があります。「このほか、南支那、台湾においては水牛を使役す。朝鮮にも特殊の赤牛を産し、軍用背嚢の毛皮は主としてこの地の生産なり」。第二次世界大戦から七十数年後の現代を生きる私たちには、水牛云々よりも南支那、台湾、そして朝鮮が本邦として扱われている点に目が向かないわけにいきません。大日本帝国は明治二十七年の日清戦争に勝利し台湾を、その後明治四十三年には韓国を併合して長きにわたって統治下におきました。また、支那という呼称は、現在では蔑称に当たるとして使用を控えるようになっています。この教科書にはそれらが当然のことのように書かれているわけです。
続く「豚」の項では、「牛・馬と相並びて大切なる家畜は羊・豚である。されど本邦にては羊・豚の飼養未だ盛ならず。(中略)近時本邦においても政府の奨励と国民の努力とにより、外国種を輸入し盛に改良を図れり」とあります。この時代にはまだ豚肉があまり普及していなかったようです。ほかにも魚類の項では、樺太での鮭漁の様子などが紹介されています。樺太がまだ日本領土だったわけですから、これもまた時代の違いを感じさせられます。
百年以上前の『動物学新教科書』は読めば読むほどに発見がある一冊でした。


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